木のある心地よい暮らし

「杉」のすぐれた特徴は、日本の暮らしを豊かにする

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すこやかな暮らしをつむぐ「杉の家」

家を支える構造材として

家を支える柱などの構造材には、十分な強度が必要です。杉は柔らかいので、構造材として使うには強度が不安という人もいるかもしれません。しかし結論から言うと、きちんと乾燥させた杉材であれば問題はなく、良質なものは柱にはよく使われているほどです。

ただし木は人工物ではないので、生育環境によって1本いっぽんに癖があります。その癖を見抜いて生かす組み方をすることも大切で、それには大工さんの経験がものを言います。

住み心地を左右する内装材

木材を基調とした部屋

素直な杉の木目は見た目に美しく、清々しい香りも相まって、家の内装材に最適です。
また、部屋の湿気が多いときには適度に吸い込み、乾燥してくると放出する調湿作用も見逃せません。じめじめする夏、乾燥する冬・・・四季を通じて住み心地を快適にしてくれます。
杉を壁、床、天井などにふんだんに使った家は、本当に心が安らぐものです。

少し実際にあったエピソードをご紹介しましょう。
あるお宅では、喉が弱くて冬は加湿器が手放せなかったはずの奥様が、床と天井に杉板を張った新居に引っ越してから加湿器を使わなくなったそうです。
また、山の近くに家を建てると、雨が降ったときに裏山から強い湿気がやってきます。ところが壁と天井に杉を用いたAさん宅のケースでは、あまりジメジメが気にならないのだそう。
こうした事例にも事欠かないのが、杉をふんだんに使った家なのです。

耐久性の高い外装材として

杉は古くから船の材料にも使われるほど水に強い素材。また耐久性があって無塗装でも40年以上持つので、住宅の外装材としても使われています。
ただこの場合は、時間が経てば色あせや黒ずみが起こるということをよく理解しておいてくださいね。杉板は日や雨にさらされ、だんだんと枯れたようなシルバーグレーになっていくのが自然な姿。これを「味わい」として楽しみたいという人におすすめです。

杉板の表面を焼いた焼杉板にすれば、さらに耐久性がアップ。黒い見た目はシックで美しく、デザイン上のアクセントにもなります。

生活を豊かにする「杉の道具」

おひつに入ったご飯

杉は軽いため、江戸時代には桶の材料としてよく使われていました。軽くて使い勝手の良い桶は、水や肥料を運ぶのに役立ち、農業の発展にも貢献したのです。

その他にも、ご飯の湿気をとって美味しさをキープしてくれる「おひつ」、日本酒に心地よい木の香りを添える酒樽など、杉の道具は数え上げればきりがありません。

手軽に杉の良さを楽しめる道具としてお勧めしたいのが、「杉の割り箸」。杉の丸太から四角い柱を切り出した後の、半円形の端材を使うから、資源の有効活用です。

人間の最も敏感な部位である唇に触れる箸こそ、木を使っていただきたいと思います。とくに杉の箸は柔らかくて温かみがあり、食事をおいしく感じさせてくれます。
高名な書家・陶芸家であり、料理家でもあった北大路魯山人は、毎朝柾目の赤杉の割り箸を割って、それを1日の食事に使っていたそうですよ。

世界に誇る、日本の杉

杉というと「ありふれた材木」「安価」「節が目立つ」など、ネガティブなイメージを持っていませんでしたか?
実は、「日本で一番値段の高い木は杉であり、一番安い木も杉である」と言われるほど、杉の品質にはバラツキが見られます。

たとえば「100年、200年と樹齢を重ねた杉をきちんと乾燥させた材」と、「45年ほどで伐採し、乾燥も不十分な材」では、見た目は同じ大きさの板であっても、内容は異なります。
前者を住まいに取り入れれば、調湿性やリラックス効果などを実感しながら、経年変化を楽しみつつ長く楽しめることでしょう。後者は、ローコスト性を重視する建築などで使われることもあります。

きちんと選べば、杉は日本が胸を張って世界に誇ることができる、すばらしい素材です。その良さを見直すためにも、まずはお箸やお弁当箱などから、本物の杉を生活に取り入れてみませんか。